卵巣は体内で最もアクティブな臓器の一つです。卵巣の大きさは年齢によって異なり、思春期前にはとても小さな臓器ですが、思春期になり視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモンが放出されるようになると著しく大きくなり、いわゆる性成熟期を迎えます。成熟した卵巣はおよそ親指の頭くらいの大きさに成長しますが、そこからだんだんと縮小してきて閉経後にはとても小さく索状になり、老年期では、細いヒモのように薄く小さくなります。
原始卵胞という細胞は、その状態で、何十年も生きる事ができる特殊な細胞です。
原始卵胞が年を重ねると、排卵が行われても、卵子が卵子としての機能を失っている状態が多くなりがちになります。また、染色体異常をもつ卵子も増えてしまい、染色体異常を持った卵子は受精卵になったとしても育たない、育っても着床しない、着床しても流産してしまうという事が多くなります。卵子の染色体異常は年齢に関係なくおこります。しかし、年齢を重ねるにつれて卵子の染色体異常の数は多くなるのもまた事実です。これは原始卵胞が年を重ねたからだと考えられています。
若年層の女性の卵巣で一番気にしなければならないことは卵巣のうっ血です。思春期の女性の卵巣は正常な状態でもはちきれんばかりの弾力性とふくよかさを兼ね備えていますが、往々にしてその時期の女性の骨盤は、卵巣や子宮などの二次性徴期に大きくなる臓器の成長に追いつかないことがあります。卵巣の然るべき位置は骨盤内の内外腸骨動脈が分枝する場所にあり、思春期に急激に大きくなる卵巣は時としてその部分の腸骨動脈を圧迫してしまいます。これは卵巣自体を栄養している卵巣動脈がその腸骨動脈から分枝されているわけでなく、それよりもっと上方の(もともとあった場所)腹大動脈から直接分枝されているために、腸骨動脈周囲での自己調節機構が働かないことも活性化している卵巣にうっ血が多いことの原因となります。
「卵巣嚢腫」です。
卵巣は人間の身体のなかで最も多種多様な腫瘍が出来る場所と言っても過言ではありません。卵巣嚢腫は腺組織に出来る腫瘍のため、腺管の出口が塞がれてしまうことで袋のように膨らみ、中に多量の液体が溜まっている状態になってしまいます。イメージとして「氷嚢に水と氷を溜めた状態」を思い浮かべていただきますと想像がつきやすいでしょう。
「漿液性嚢胞腺腫」
(さらさらとした液体が卵巣に溜まるものです)
「粘液性嚢胞腺腫」
(とろっとした液体が卵巣に溜まるものです)
「奇形腫」
(卵巣に髪の毛、脂肪、歯や骨を含んだものが出来てしまうものです)
このなかで20歳未満の最も卵巣がアクティブな世代の女性にできやすいのが「成熟嚢胞性奇形腫」です。これはこの世代の女性がり患する卵巣嚢腫の内の約80%を占めます。奇形腫は卵巣の中に身体の他の組織の成分が出来てしまう病気です。
テラトーマは別に稀なことではなく、極端な話としてこの「成熟嚢胞性奇形腫」の規模が大きくなったものだと思えば特に珍しいことではないのかもしれません。卵巣はいうなれば卵子(たまご)を生産する臓器なので、卵胞が成長するプログラムに誤作動が起こると卵胞が人体の別の組織に成長してしまうのでしょう。
排卵時の卵胞の大きさは約18〜22mmとされています。卵胞はまだ成長していない段階では0.05mmほどの大きさですが、生理周期の中で20個程度が活性化し、1日に1.5~2mmというスピードで大きくなっていきます。そして、生理が始まってから6~9日目で18~22mmに成長すると、活性化した卵胞の中の一番ちょうどいい大きさの卵子が1個だけ選ばれて排卵されます。そう考えると毎月排卵される卵子は、1/1000の競争を勝ち抜いたエリートなのですね。
1つの卵胞が排卵したあと、その競争に敗れた残りの卵胞は排卵せずに少しずつ小さくなり、生理が来る頃までには消滅しますが、その中に正常でない発育をしてしまう卵子が腫瘍となってしまうのです。卵子は元々もの凄い活力のある細胞なので、その中には無性生殖して発育してしまう細胞もあるのでしょう。
卵巣は正常な場合でも排卵を繰り返しているうちにいびつな形になっていきます。卵巣に腫瘍ができると、そのいびつな形がもっと顕著になってしまいます。卵巣堤索と固有卵巣索の二本の靭帯によって宙ぶらりんのように支えられている卵巣は、身体の動きや、内臓からの圧迫などによってその支持靭帯の間で回転しながら腫瘍自体の重みによって次第に骨盤の底の方に向かって下がっていくようになります。
軽度の茎捻転の場合、鼠蹊部の引き攣れ感があるだけで無症状の場合がありますが、重度になると腰痛・悪心・嘔吐・発熱などの症状が現れます。
上記に掲げた卵巣の問題に関して、一つの共通点が見受けられます。
それは卵巣という臓器の静脈還流の特殊性です。
骨盤内臓器の静脈還流は各々静脈叢という静脈の網の目のネットワークを作っていて、それが骨盤内で巨大なネットワークを作り、互いの静脈還流を補完し合って、最終的に内腸骨静脈と門脈に還流しますが、卵巣は腹大動脈から卵巣独自の動脈にて直接血液を供給され、静脈血も単独の静脈によって還流されています。静脈還流には左右差があり、右の卵巣静脈は直接下大静脈に還流されますが、左の卵巣静脈は一度左の腎静脈に注ぎ、それから腹大動脈の前を乗り越えて下大静脈に還流します。骨盤内の左側はS状結腸が占有しているため右側に比べてスペースがないためにそのような作りになっているのかもしれませんが、やはり設計上窮屈な作りになっています。
このような構造的な問題があるために、卵巣には血行障害がつきものであると言わざるを得ません。
嚢腫に対して我々オステオパスが出来る最大の武器が「静脈ドレナージュ」です。静脈血の排液はあらゆる嚢腫に対して有効です。卵巣のような活性の高い臓器においては慢性的なうっ血が最大のリスクになります。
これは特に思秋期をこれから迎える女の子に当てはまります。前述したように、初潮を迎える年齢の女の子は子宮や卵巣の成長と骨盤の成長がアンバランスな時期があります。この時期の女の子は大人の女性と比べると骨盤のサイズがまだ小さいままです。このため骨盤内のうっ血はより顕著になるでしょう。
卵巣の静脈ドレナージュはきちんとした手順を踏まえて、静脈の流れに沿って行わないと逆に弊害が起こることがあります。
しかし、きちとしたドレナージュが行われると、その施術を受けた患者様は皆、一様に下半身の軽快感や体中の血液循環が変わったことを実感されます。
〒116-0014
東京都荒川区東日暮里1-2-3
TEL 03-3805-0522
FAX 03-3805-0522